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耽羅紀行 街道をゆく 28


著者 : 司馬遼太郎
朝日文庫
朝日新聞社 東京 1990
定価 560円+税










 この本は002で紹介した田中明が「朱子学については、司馬遼太郎さんが実にうまいことを言っている」と書いていたので、買って読んだ。その部分は次のとおりである。

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 十六、七世紀頃から、世界の経済や思想が騒然としはじめて、価値観が多様になる気配を示しはじめたころでもなお、中国と朝鮮は世界史に背を向け、独創を排し、朱子学一価値に固執し、知性を牢獄に入れているとしか言いようのないこの制度を頑固に続けていた。

 朱子学は、宋以前の儒学とは違い、極度にイデオロギー学だった。正義体系であり、べつのことばでいえば正邪分別論の体系でもあった。朱子学がお得意とする大義名分論というのは、何が正で何が邪ということを議論することだが、こういう神学論争は年代を経てゆくと正の幅がせまく鋭くなり、ついには針の先端の面積ほどもなくなってしまう。その面積以外は、邪なのである。
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 耽羅とは韓国の済州島のことである。この本はそこを旅した時のことが書かれているが、私には歴史の教科書のようでもあった。紀行文だから行った先々のことが出てくるが、かつては九州の人々との往来があったということも出てくる。また、両班で中央から追われて島流しに遭った人々が多かったともいう。

 両班は朝鮮の政治・文化に大きな影響を与えたが、両班の末裔である尹学準という人が書いた「オンドル夜話 現代両班考」という本が紹介されていた。それは次回紹介する。


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