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新版 アフォーダンス


著者 : 佐々木正人
岩波科学ライブラリー 234
岩波書店 東京 2015
定価 : 本体 1300円+税










 アフォーダンス、聞き慣れない言葉だと思う。2001年、私が福岡県立大学の大学院生の時の1年後輩に東大出身の男子学生がいた。彼の指導教官が佐々木正人で、アフォーダンスを研究しているということだった。この時はじめてアフォーダンスという言葉を聞いた。

 早速入門書を購入して読んだ。それが「岩波科学ライブラリー12 新しい認知の理論 佐々木正人著」であった。その後アフォーダンスについて考えることはなかったが、最近何かのテレビ番組でアフォーダンスという言葉が出てきた。それで改めてアフォーダンスを読み直してみようと思った。調べてみると同じ著者の新版が出ていたので、今回はそれを紹介する。

 「『アフォーダンス理論』によれば、私たちは『眼だけで見ているのではない』、『耳だけで聞いているのでもない』、また『皮膚だけで触っているのでもない』。そうは言っても、もちろん、アフォーダンス理論に神秘的なところは一つもない。むしろ現在のところ、もっとも『科学的』で『真実に近い』知覚の説明であると筆者は考える」という。

 雑な言い方をすると、われわれは、たとえば取っ手のあるコップを見た時、コップから出た光が眼の水晶体により網膜に像を結び、視神経を通じて脳に伝達され、脳がそれはコップだと理解する。

 その時、見る角度によって取っ手の見え具合は違ってくる。つまり網膜像の形は異なる。しかし、われわれはそれを異なるコップだとは考えず、同一物だと認識する。当たり前だ。一方、水晶体も網膜もない昆虫の複眼はそれなりに視覚を獲得して立派に生きている。

 つまり、従来の網膜像から視覚を説明するには無理がある。しかし、J. J. Gibsonが提唱した「知覚についての長い研究がもたらしたアフォーダンスのアイデアは、一般的な意味の理論の土台として、すべての認識の現象を解明するヒントを提供し続けている」という。

 「アフォーダンスaffordanceは英語の動詞ァフォードaffordを名詞化したギブソンの造語である。どうしアフォードを辞書で引くと、例文としてCows afford milk.メス牛はミルクを与える、とか、Music affords pleasure.音楽は喜びを与える、などがある。アフォーダンスは『環境が動物に与え、提供している意味や価値』である。よいものでも(食物や住まいのように)、悪いものでも(毒や落とし穴のように)、環境が動物のために備えているのがアフォーダンスである。ギブソンは、環境が空気、物質、そして面の3種から構成されているとした。これらのどれもが、アフォーダンスである。」

 以下、著者が説明するアフォーダンスの例である。

 「アフォーダンスは事物の物理的性質ではない。それは『動物にとっての環境の性質』である。アフォーダンスは、知覚者の欲求や動機、あるいは主観が構成するようなものではない。それは、環境の中に実在する行為の資源である。」

 「アフォーダンスを具体的に感じることにしよう。紙のアフォーダンスである。先ず部屋の中に、1枚の紙を見つけていただきたい。その紙はあなたの両手で破ることが出来るであろうか?たいがいの紙は破ることをアフォードしている。紙には引き裂くアフォーダンスがある。しかしもしあなたが見つけた紙が『厚いダンボールの小さな切れ端』ならば、それは紙であっても破ることをアフォードしないだろう。つまり破れないと知覚されるだろう。ただし読者が特別な握力を持っていれば別で、小さなダンボールの切片も『破れる』と知覚するはずだ。

 ではつぎに、見つけたその紙でこの小さな本は包めるだろうか?これは紙の大きさと厚さと、あなたの包装スキルに依存する。あなたがアルバイトなどで豊富な包装の経験をもつならば、どんなにぎりぎりの大きさの紙でも、この本を包むことをアフォードしたはずだ。さて、見つけた紙を丸めると、どれくらい遠くまで飛ばせるだろうか。部屋の隅のゴミ箱まで届くだろうか。窓の外へ放ることができるだろうか。これは紙の素材、重さ、丸め方、投げ方などに関連している。これらが、その紙にあるアフォーダンスのほんの一部である。」


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