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回顧七十年


著者 : 斎藤隆夫
中公文庫
中央公論新社 東京 2014
定価 本体1000円+税










 私はNHKの「英雄たちの選択」という番組ではじめて知ったのであるが、戦前、斎藤隆夫という立憲民政党の代議士が支那事変の処理に関して国会で質問した。これは、いわゆる「反軍演説」と言われるものである。

 彼の演説があまりにも「過激」だったのか、演説の「過激」部分が官報速記録から削除されてしまった。

 本書は回顧録であるから斎藤隆夫の幼少時から終戦後第一次吉田内閣に入閣したこと、当時の政治状況まで、私には興味深く記述されていた。彼は保守政治家であったが、その政治姿勢は賞賛に値する。今の政治家に聞かせたいことが多々記述されている。

 本書には斎藤の活動記録のみならず、問題の「支那事変処理に関する質問演説-昭和十五年二月二日第七十五議会」が全文収録されている。また、「粛軍に関する質問演説-昭和十一年五月七日 第六十九議会」 も収録されている。

 この二つの演説は今の日本の政治状況に全く当てはまると思う。
 削除された部分に下のような件がある。

 「かの欧米のキリスト教国、これをご覧なさい。彼らは内にあっては十字架の前に頭を下げておりますけれども、ひとたび国際問題に直面致しますと、キリストの信条も慈善博愛も一切蹴散らかしてしまって、弱肉強食の修羅道に向かって猛進する。これが即ち人類の歴史であり、奪うことの出来ない現実であるのであります。この現実を無視して、ただいたずらに聖戦の美名に隠れて、国民的犠牲を閉却し、曰く国際正義、曰く道義外交、曰く共存共栄、曰く世界の平和、かくのごとき雲を掴むような文字を列べ立てて、そうして千載一遇の機会を逸し、国家百年の大計を誤るようなことがありましたならば、現在の政治家は死してもその罪を滅ぼすことは出来ない。」

 安倍首相は、曰く「集団的自衛権」、曰く「積極的平和主義」、曰く「人道支援」、そして曰く「憲法改正」。日本が直接関与していない武力紛争に巻き込まれるのは間違いない。戦争で利益を得るのは武器商人だけではないか。「テロ」も「戦争」も同じく非人道的なものだ。武力による「紛争解決」は負の連鎖を強めるだけだ。

 この回顧録は、われわれよりもむしろ今の保守政治家に読んでもらいたいと強く思う。


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